前回に引き続き、またしても福山市花園町のアパートのお話です。
私は、当時、福山のアパートに配達された、
友人からのハガキや年賀状などをいまだに持っておりまして、それによると、
私の部屋は202号となっています。
不動産契約書などの類いは、もうすでに捨てていてありませんから、
そのハガキや年賀状で、正確な住所を改めて知ることができました。
ところで、当時は、携帯電話などありませんし、私のアパートに電話はありません。
広島市の下宿に住んでいたときは、私に用がある場合は、
大家さんの自宅の固定電話に電話を掛けてもらって、呼び出してもらってました。
これは何も珍しいことではなく、ほとんどの学生がそうしていました。
というのも、固定電話を開通するには、電話の権利が必要でして、
その権利が高価で7~8万円もしたからです。
携帯電話が普及した現在では、固定電話の権利は無価値になりました。
それはさておき、
大家さんの電話を貸してもらっているというわけでして、
ただ単にヒマだからという理由で電話を掛けてくる知人はいません。両親も然りです。
緊急性の比較的高い用事があるときにだけ電話を使うというのが、
世の中の普通の感覚でした。
アパートの話に戻りますと、
外階段にいちばん近いところが201号、トイレや洗濯機などが置かれている共有スペースを挟んで、
私の部屋が202号、隣の203号は空き部屋で、その隣が204号だったと思われます。
そして今回は、201号の住人について書きたいと思います。
私は、引っ越したときに、201号と204号を訪ねて挨拶をしました。
204号の住人は、比較的在宅していることが多いようで、すぐに会えましたが、
201号の住人は不在が多く、なかなか挨拶できないでいたように記憶しています。
古いアパートですから、住人が廊下を歩いたり、
部屋の扉を開ける音などはほかの住人にも聞こえます
その日、私は数少ない友人のひとりがアパートに来ていて、ふたりで部屋にいました。
現在は近畿地方の某県で市役所に勤めているヨウイチ(仮名)です。
ヨウイチは、広島市の下宿にもよく来ていた仲の良い友人でして、
今でも年賀状のやり取りをしていますし、お互いかなり離れたところに住んでいるのですが、
数年にいちど会うくらいの親しい関係です。
たしか、ヨウイチと部屋にいるときに、201号に人が入る音を聞きつけ、
引っ越しの挨拶に行ったような気がします。
私は学生で社会経験もありませんので、ただ挨拶しただけで、
お菓子とか粗品の類いを渡すなどという気のきいたことは思いも付きませんでした。
201号の住人は、私と同じくらいの年齢の若い男性でした。
私は、挨拶して部屋に戻るつもりでしたが、呼び止められて部屋のなかに招かれました。
6畳一間の部屋なので、部屋のなかはすべて見渡せるのですが、
ほかに、やはり若い男性と、若い女性がいました。合計3人です。
人見知りで警戒心が強い私は躊躇しましたが、断る理由もなく招かれることにしました。
いちど部屋に戻り、ヨウイチとふたりで201号の部屋に入ったわけです。
古いアパートだと、建物に入るときに靴を脱ぎ、
共有廊下および自室は土足で歩かないタイプのアパートがありますが、
この福山市花園町のアパートは、自室に入るときにはじめて靴を脱ぐタイプ、
いわゆる貸家式と呼ばれるアパートでした。
そういうわけで、扉を開けていきなり部屋になってはいますが、
扉と部屋の間に、靴を脱ぐ土間のようなスペースがありました。
また話が脱線しました。201号の住人の話に戻ります。
私とヨウイチは、201号にいた3人に招かれて雑談することになるのですが、
今後の話をわかりやすくするために、仮名を付けます。
201号の住人、つまり部屋を借りている人間をマエダ(仮名)さん、
そして若い女性をキクチ(仮名)さん。もうひとりの若い男性をヤスハラ(仮名)さんとします。
マエダさんとキクチさんは付き合っており恋人同士の関係で、
彼らの友人がヤスハラさんです。
さらにヤスハラさんは、このアパートの大家の息子でした。
そしてマエダさんは、
いままさに私が通っている大学の先輩だということもわかりましたが、
すでに退学しているとのことでした。
なぜ退学したのかは、この後の話と関連するのですが、
私はずっと、なにか不安な直感がずっと働いておりまして、
話を切り上げられないものかと思っていました。
一方、ヨウイチは普段から飄々とした人物でして、自然体という雰囲気で座っています。
ちなみに、部屋は殺風景な感じで生活臭さがありませんでした。
段ボールがいくつも重ねて置かれているのが気になったのと、
照明が裸電球だったことも気になりました。
部屋が黄色がかり暗かったため、話をしながらも、
蛍光灯に買えた方がいいのではないかと思っていました。
そして本題なのですが、マエダさんがおもむろに洗剤を出してきて説明を始めました。
なんとなく察した方もいるかもしれませんが、マエダさんはアム〇〇〇をやっていました。
伏字にしましたが、アム〇〇〇とは、ウィキペディアの記述を借りると、
“家庭日用品等を主に連鎖販売取引で販売する企業”です。
さらに、私の「アム〇〇〇をやっていました」という記述は文法的には間違っているのですが、
一般的にはよく使われる言い方です。
マエダさんは、品物の販売と同時に会員を広げる活動をしていました。
洗剤はもちろんアム〇〇〇の商品です。
そして、私とヨウイチに対して、勧誘が始まるのですが、
その顛末はまた次回以降に書きたいと思います。
トップ画像は、以前に取り上げました、
ビニ本「SweeT MeMoRY スィートメモリー」(飛鳥書房)からのものです。
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