前回の、ビニ本「ザ・肛門 THE KOMON」北見書房(前編)の続きです。
“ビニ本創生の原動力となった大手”(「ビニールアイドル VINYL IDOL47」)の版元であった、
松尾書房と北見書房について書いていきたいと思っていますが、
取っ掛かりとして、トップ画像について触れることからはじめます。
トップ画像は、ビニ本「ザ・肛門 THE KOMON」の裏表紙です。
これに気になるところがふたつありました。
右下の「JNMA 007」マークと、右上の「プレゼント券 1点」です。
まずは右下の「JNMA 007」です。
(「JNMA 007」の左側に北見書房の住所が明記されているのですが番地は隠しました。)
「JNMA」とは、
1980年(昭和55年)に発足されたビニ本の自主規制団体「日本新雑誌協議会」のことです。
これまでこのブログで何度か触れています。
そして、“007”というのは、「ザ・肛門 THE KOMON」というビニ本に付けられた番号ではなくて、
おそらく発行元の北見書房に付けられた番号です。
1980年、スケパンが登場してビニ本ブームとなったわけですが、
“55年11月のゴー出版「誘惑」と流通元「芳賀書店」の摘発を皮切りに、群雄社出版(現VIP)、
ピーター出版と版元が続々と捕まりはじめ、いよいよ、当局のビニ本壊滅作戦がスタート。
この頃は、刑罰が罰金から実刑へと(当然)エスカレートしていた。”
(「ビニールアイドル VINIL IDOL 47」白夜書房)
“年が明けて、56年一月。一ヵ月間だけで、30冊のビニ本が発禁になった。”
(「ビニ本大全集」東京三世社)
このように、ブームになったことで当局の取り締まりが激しくなります。
そして、
“この摘発攻勢に対応して、古株出版社18社を発起人としてビニ本の自主規制団体を結成。
55年11月には、加盟145社からなる「新雑誌協会」として正式に発足。”
(「ビニールアイドル VINIL IDOL 47」白夜書房)
というわけで「JNMA」が発足されるのですが、
“007”という、比較的はじめのほうの番号であることから推察するに、
北見書房はおそらくJNMA発足当初から参加していた版元です。
ちなみにJNMA初代の会長は、松尾書房の社長さんだと思われる松尾洋三氏です。
松尾洋三氏と奥出哲雄氏との対談が、
「ビニールアイドル VINIL IDOL 47」(白夜書房)に掲載されているのですが、
当時のビニ本ブームについて、とても興味深いことが語られています。
“松尾(中略)とにかく、他者のエスカレートぶりが凄かったでしょ。だからウチは一旦、
全部辞めてしまおうかと考えてもいたし、社内会議でも幾度も話し合ったりしたんですけどね。
みんな、生活もありますし、細々とでもいいから続けていこうって。
で、一つの転身として、問屋も始めたんですよ。
(中略)
松尾 ええ、僕が初代の会長に祭り上げられましてね。
協会が全ての出版物をチェックして自主規制してくと。
ゲラ刷りの段階で細かく指導していくやり方でしたけど、
警察の方の協力を得るのが仲々に難しくて、むこうもまさか検閲という形は踏めないわけですし、
こちらとしては非公式でもいいから、何らかの形で承認を得たかったんですが、
うまくはいかなかったですね。~”
ちなみに、ネットで検索しますと、
松尾書房発行の人気シリーズ「下着と少女」がビニ本の元祖と呼ばれたりもしています。
ビニ本は、スケパン革命以後、マンコ見せ競争になったことでブームになり、
一般への認知度も上がっていきました。
そのため、「ビニ本」のイメージについて、
法的には限りなくクロに近いグレーで、いかがわしいものという認識が少なくないと思います。
しかし、
ビニ本の元祖と呼ばれている松尾書房は、そういう“マンコ見せ優先”の姿勢ではありませんでした。
“松尾 (中略)要するに、日常の動きの中でね、
自分でも気付かないような魅力が誰しもあるんだ、と。
それを何とかカメラで引き出したいってね。で、その中には洋服を着ている所もあるだろうし、
そうじゃない瞬間もあるんだと。~”
(「ビニールアイドル VINIL IDOL 47」白夜書房)
モデルの女の子の魅力を最大限にするやり方のひとつとして、
陰毛が透け、マンコが薄っすら見えることもあるということで、
最初の動機は、陰毛やマンコを透けさせたいということではないと私には思えます。
さらに、
“松尾 僕としては、最初の一年は苦しいかもしれないけど、この期間を何とか乗り切れば、
やがては淘汰されて、アウトローのようなポッと出の版元は消えていくし、
そうすれば業界全体にとってはよくなるんだって、励ましていたんですけど、
結局は、徐々に協会を抜けていく版元も増えてきて、自然淘汰のような形になってしまったんです。”
(「ビニールアイドル VINIL IDOL 47」白夜書房)
上記の松尾氏の発言からみるに、
スケパン革命当時のビニ本業界は、マンコ見せ競争ばかりで、
モデル本来の魅力を引き出す本づくりをしていないじゃないか…
という気持ちが透けてみるような気がします。
しかし、売れるからということでマンコ見せ競争はさらに過熱し、
マンコ見せ→発禁が相次ぎ、松尾氏のいう“最初の一年”で、
前述したように“30冊のビニ本が発禁”になりました。
その後、松尾氏は会社から退くかたちになり、
松尾書房は出版点数を減らしていき、問屋業務がメインになるのですが、
1983年にはそこからも撤退しています。
優美堂、飛鳥書房、コンパル出版など、
ベールテクニックを駆使した新興勢力のビニ本版元が出てくるのは、そのあとです。
ここまででかなり長くなりましたが、
後半は、そんな松尾書房と北見書房とのビニ本制作の違いについて書いていきたいと思います。
ここでまたしても「ポルノ雑誌の昭和史」(川本耕次著 ちくま新書)を取り上げました。
少し長いですが、以下、引用です。
“すごくイメージっぽい言葉で形容するなら、
実話誌や他社のヌードは「裸モデルが見えてはいけない場所を隠した」写真、
松尾書房は「素人娘を脱がせていった」写真だ。
そのモデルの出自が、ポーズや衣装に微妙に影響している。
一方で、北見書房はというと「理想的なイメージに向けてモデルを配置した」感じがする。
松尾書房では毎回、撮影場所が違うし、モデルも脱げたり脱げなかったりだ。
スタイリストが同行し、衣装は何着も用意される。
一人のモデルが7種類の衣装をとっかえひっかえしてるのも確認されている
(「セシル」第1集)。下着が、ではない。あくまでアウターが、だ。
いわば、服を着ているのがデフォ(標準、普通)で、それから脱いで行く。
どこまで脱ぐのかはモデルさん次第のアドリブだ。
それに対して、いつも京王プラザで撮っている北見書房は、
完璧に構成されたいつもながらのポーズと下着で撮る。
人間国宝の演じる伝統芸能を鑑賞しているようなもんで、終着点は見えている。
(中略)
脱げるかどうか判らない女の子使って博打みたいな撮影やっていた松尾書房に対して、
北見書房は最初から脱げる女の子使って「商品」を作っていたわけです。~”
これらの話は、ビニ本というカテゴリーを越えて、
映像を含めたエロに関する根本的なエッセンスがあると思います。
そのため、私は宇宙企画の素人モノAVを思い出しました。
私が高校を卒業したのは1985年ですが、宇宙企画の素人モノ作品の洗礼をモロに受けた世代です。
思えば、宇宙企画作品は、本当に清楚な女の子も、
ヤンキー娘も、風俗嬢もすべての女の子が、最終的には清楚系アイドルの女優として、
私たちの前に現れました。
それに対して、
清楚系と思っていたのに本当はヤリマンだった!騙された!
という憤りを持った青少年も少なくなかったのではないでしょうか。
逆にいえば、それだけ演出の力が優れていたということです。
ただ、私は女優の本当の姿を見たいとは思っていませんでしたので、
清楚系とかけ離れた女優たちの“本来の姿”、たとえば私生活を知ったとして、
ギャップを上手に埋めた演出と、女優の演技に感心することはあっても、
騙されたなどとは思いませんでした。
想定された雛形にはめていくということで、
宇宙企画のやり方は、北見書房に近いといえると思います。
一方、当時のダイヤモンド映像などは、
多少の演出はありましたが、ドキュメント風で力技で撮影が進行している感じがしていました。
そのため、どちらかというと松尾書房のやり方に近いのではないでしょうか。
“パンツの透け具合への執着というのも特徴的で、松尾書房の場合は見えたり見えなかったりと、
ここでもアドリブ的だが、北見書房はいつも一定の線までは確実に見せます、
という安定した管理体制が感じられる。”
上記も「ポルノ雑誌の昭和史」からの引用ですが、
宇宙企画が、どちらかというと過激だった北見書房的なやり方で、
ダイヤモンド映像が、おとなしめな美少女路線の松尾書房的なやり方に近いです。
あくまで私の印象ですが、
宇宙企画よりもダイヤモンド映像の作品のほうが、
客観的にみてもエロくて過激だと思うのですが、それが逆転しているのも面白いです。
ただし、当時の私は、このようなことを考えてはいません。
アダルトビデオはメーカーを選ぶのではなくて、好みの女優を優先してレンタルしていました。
おそらくほかのマニアのかたも皆さんそうだったと思います。
そして、ここでやっと、
トップ画像の裏表紙で気になるところのふたつめ「プレゼント券」の話になります。
これは、私が説明するまでもありませんが、
「プレゼント券」を集めて北見書房に送るとプレゼントがもらえるというものです。
2点・ヌードクツベラ
3点・ポルノボールペン
4点・バイブ・レーター
5点・ヌードトランプ
表3に応募方法が掲載されていて、上記のプレゼントが抽選ではなく、もれなくもらえます。
バイブレーター以外は、1980年代当時だと一般的と思われる“おもしろエログッズ”ですので、
当時だと、とりたてて欲しくはなりませんが、逆に今だと欲しいです。
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